経営改善の『実施』

経営改善の「実施」(1)

先日ある金融機関で更新研修を実施しました。研修の後に懇親会があり、そこで以前から面識のあった機関員の方と経営支援について話をしました。その方は金融機関にいながら企業再生や経営支援の現場に配属されるという少し変わった経歴を持っていました。

「再生の現場にいても経営支援の現場にいても『実施』してもらうことの難しさを感じます」とその方は言います。要するに専門家を交えて経営改善に向けた効果的な計画を作っても、経営者自身が実施しなければ意味が無い。また一時的に実施して成果が出ても、数カ月後にはやらなくなってしまう。そうして結局再生できなかった経営者をたくさん見てきました、と言います。
経営状態が悪いことは突発性ではなく生活習慣病だとも言っていました。手術をしても抜本的な解決にはならず、普段の行動を変えなければ良くならないと。

コンサルタントとして活動しながら自分自身も事業を行っていると、「実施」してもらうことの難しさ、また「実施」することの難しさ両方が分かります。2018年度の理論研修のテーマ「新事業展開の支援」はその難しさを理解しつつそれでも新たなことをやっていかなければならないという思いからテーマ設定をしました。研修テキストでも書いていますが、特に経営者の心情に左右されやすい小規模事業者においては「実施」に対して様々な要因が絡みます。
どうすれば「提案する経営改善案」が実施されやすいのか、考えることを数回に分けて書いていきます。

経営改善の「実施」(2)

まず経営者の視点から「提案」を見てみます。私もコンサルタントを雇っているため、参考として私自身のことを書きます。

3年前からある分野においてコンサルタントを雇っています。毎月2回の会合の中で、コンサルタントからは将来の姿や現状のモニタリング、打った方が良い手、将来訪れる状況への対策など、様々な「提案」をしてもらいます。提案は多くが「やった方が良い」と思うもので、実施方法まで細かく話し合います。ちなみにコンサルタントは、お願いするにあたって5~6回会って話し合いをした後「この人であれば」と思い契約のお願いをした信頼する相手です。

では、そうしたコンサルティングの中で私自身が提案を「実施」している割合はどうかというと、恥ずかしながら半分程度です。有料で雇っている信頼する相手からの、見込みのある提案であっても半分程度しか実施していないのです。情けない限りですが、現実そうなっています。

以前に理論研修において、こうした提案が「実施」されないという話をしたことがあります。それに対して受講者からは「経営者にやる気が無いのでは?」という意見が返ってきました。お金を払って雇っている相手からの、自分でもやるべきと思う提案をやらないというのはやる気が無いとしか思えない、という意見でした。

経営者視点で言えば、これは正解です。実際何人かの経営者に実施できない理由を聞くと「時間が無い」ことを理由として挙げますが、どんなに忙しくても良いと思った提案を全て実施する経営者ももちろんいて、何が何でもやるという気があれば(よっぽど無茶な提案をしていない限り)実施は可能です。

そのため「経営者のやる気」が実施されない大きな理由になるのだが、そこに私なりにもう一つ理由を加えるとすれば、「習慣」と「危機感」という人間的な理由です。

経営改善の「実施」(3)

経営者が改善の「実施」が出来ない理由は「習慣」と「危機感(の欠如)」にあり、それは多くの人に当てはまることと思います。

例えばこんな経験はないでしょうか?
セミナーや勉強会に参加した。教わった内容は自分の仕事や日常生活において役立つものであり、ぜひ実施・習得したいと思った。しかし帰宅し日常生活に戻ると、習得したいという気持ちはあるものの何となくやる気が出ない。そうして数日後には習ったことを思い返すことすら無くなってしまう。

教わったことを確実に実施する人もいるため、これも本人のやる気次第です。しかし多くの人はそれぞれの環境で学習された「習慣」で日々を過ごしているため、例えば帰路に就く中で毎日乗っている電車に乗るなど、日常の環境に戻ることで日常の「習慣」が優先されてしまい、新たな行動は取りづらくなります。

経営者も同じです。提案された時には「実施したい」と思うのですが、日常の環境に戻ると目の前には多くの業務があります。さらに改善提案のような「習慣」に無いことの実施には精神的な負荷がかかります。「とりあえず目の前の仕事を片付けてから」と後回しにしていき、そのうち実施の意思が薄れてしまいます。

もう一つは「危機感(の欠如)」です。
業界にもよりますが、現在の中小企業の経営環境は厳しいです。いつ大手との取引が無くなるか分からない、いつ強力な相手が参入してくるか分からない「これまで通り」の経営が成り立たない時代です。

そんな厳しい自社の経営環境を認識しても、結局「昨日と同じ」になってしまう経営者もいます。一度は危機感を持ち改善を実施しても、時間経過や疲労、あるいは小さな成功によって危機感が薄れてしまうということもあります。初回で書いた企業再生が頓挫してしまう経営者は、この辺りが理由と思います。

これが規模の大きな企業になると、実施する仕組みとしての「組織」があります。ですが小規模な企業ほどそういった仕組みは無く、経営者の感情・感覚に左右されてしまいます。
ではコンサルタントはどうすれば良いのでしょうか?

経営改善の「実施」(4)

「実施」が出来ない企業に対して、コンサルタント側はどうすれば良いかと考えると、対応はいくつか考えられます。一つはその企業との関係を断つことです。実施されないのであれば、その企業に割いている時間で他の企業を支援する方が両者のためとも考えられます。
もう一つはコンサルタント側も実施されない理由を自責として考え、工夫することです。

コンサルタント側からみた実施されない理由は、いくつかが挙げられます。
例えば以下のようなものである。

  1.人材、時間、資金等の面により実施困難な提案をしている
  2.経営者の心情的な面により実施困難な提案をしている
  3.会社の将来に目を向けさせることが出来ていない

1と2に関しては企業についての理解不足から生じます。2は例えば「経営者が望まない事業の方向」「経営者が未経験のこと」「その企業で過去に実施して失敗したこと」「経営者が理解しきれない(IT等)こと」などが挙げられます。実務補習の提案はここで失敗していることが多くあります。


これらの問題は企業や経営者のことを深く知らないために発生するコンサルタント側の失敗です。多くの「診断・提案」の場では経営者ヒアリングにはそこまで時間を割けませんが、コンサルティングにおいて経営者ヒアリングは重要な位置を占めています。

経営改善の「実施」(5)

最後に、実施されない理由の例として挙げた
・会社の将来に目を向けさせることが出来ていない
という点を考えます。

これは特に昨今の小規模企業経営者に言えることです。彼らは実務(営業や製造業務)を行っているため、非常に忙しいです。経営改善の必要性は感じていますが、常に頭の中には目の前の業務があり、将来の自社の姿を考える余裕がありません。
そうした経営者に対して、会社の将来を想像させることはコンサルタントの重要な仕事の一つです。このままいけば5年後、10年後どうなるのかを想像出来なければ、経営改善が「今やらなければならないこと」として納得されません。時には社長と会社の将来について話し合うことが、社長にとっても重要な機会になり、会社の業績にも良い結果を与えます。

5回に分けて経営改善の「実施」について書いてきました。
コンサルタントも活動は人それぞれですが、基本的には相手企業が動いてくれなければどうにもならないものです。
相手の考えや内面を変えるというのは非常に難しいですが、相手企業の業績を高めるという目的に沿うためには、現状や将来に目を向けてもらい、経営改善を「やった方が良いこと」から「やらなければならないこと」に認識を改めてもらうこと、そしてそれを繰り返すことが第一歩です。

[テーマ:経営改善の「実施」完]